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はじめての出版、地獄秘話

先月2月27日に、書籍『機械学習・深層学習による自然言語処理入門』を発売させていただきました。タイミングを逃して、Twitterやブログで告知することもなかったのですが、気持ちを整理するために、本記事では出版の経緯からまとめてみます。キラキラした感じで書いても面白くないと思うので、ドロドロした感じで書いていきます。

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機械学習・深層学習による自然言語処理入門

きっかけは上司からの紹介

書籍執筆のきっかけは上司からの「自然言語処理本の執筆依頼が来ているがどうか?」という話でした。それまでにも、ありがたいことに、いくつかの出版社から執筆依頼はあったのですが、提案された企画の内容を書くことに気が進まなかったため、すべて断っていました。ただ今回は、いつもブログに書いてる自然言語処理の話だったので、話を聞いてみることに決めました。

そこから1度、担当編集者に弊社に打ち合わせに来ていただき、内容やボリューム、完成時期などについての話をしました。編集からは「エンジニア向けの自然言語処理の本を出したい」という話をされ、自分としても、日本語で行う自然言語処理の実践的な本がないことに対する不満から、この本を書くことで世の中に貢献できるのではないかという考えのもとに了承しました。

編集との直接の打ち合わせはこの時だけで、その後は全てメールでのやり取りで済ませています。おそらく街中ですれ違ってもお互いに気づかないでしょう。最初の打ち合わせ終了後、節レベルまで書き出した目次を提出し、先方の企画会議を通った後に執筆がはじまりました。執筆自体は業務時間内で行えるように会社と調整しました。これが後で社内手続き地獄に繋がるわけですが…。

執筆: はじめては単著じゃないほうが良いと思った話など

今回は単著で本を執筆しましたが、はじめてなら複数人で書く方が良いと思いました。単著で書くメリットとしては、すべてを自分の管理化に置ける点を挙げられます。ただ、1人で書いてるとモチベーションの維持が難しいので、執筆に慣れないうちは同じ目標に向かう仲間がいた方が良いと感じました。私はモチベーションが低下して、3ヶ月程まったく書かない期間がありました。

また、執筆の締切は決めておいたほうが良いです。私の場合、出版社との間で締切についての条件はありませんでした。簡単に言えば、最後まで執筆できたら契約して発売しましょう、ということです。執筆は芸術と似ている部分があり、良くしようと思えばいくらでも手を入れられ、終わりがありません。だからこそ、締切を決めて期間内で最高のものを書き上げるやり方が必要です。

その他、苦しんだ点はタスクの切り替えです。会社員なので、執筆以外の業務もありますが、慣れない執筆と業務を切り替えるのには膨大なエネルギーが必要でした。当初は業務から執筆に切り替えた際は筆が全然進まず、それが心的な重みになりました。また、執筆に思ったよりも時間を取られ他のことができないということも起こり、それもまた心の重みとなりました。

発売後: 出版ブルーになる

出版直前、また出版後は心が非常に落ち込みました。読み直すほど不完全な部分が見えてきて直したくなったり、「こんな本を出しても意味がないのではないか」と思ったり、書き上げた作品がボロクソ言われる怖さといったことが重なって、不安で落ち込みました。結局、そんな事考えても意味がないということは頭ではわかっているのですが、心がついていかない感じです。

また、社内手続きの多さにも辟易としました。弊社では執筆には以下の手続きが必要です。

  • 対外発信申請(本を公開する許可を得る手続き)
  • 執筆のための決裁(偉い人から執筆の許可を得る手続き)
  • 契約書事前審査(契約前に契約書の内容を審査する手続き)
  • 契約決裁(契約を締結する手続き)
  • 押印依頼書(契約書に判子を押してもらう手続き)
  • 請求書発行依頼(請求書を発行してもらう手続き)
  • 契約書送付手続き(先方に契約書を送る手続き)
  • 請求書送付手続き(先方に請求書を送る手続き)
  • 入金依頼(私の口座に振り込んでもらう手続き)

次からは業務では執筆しないことを決心する程度には面倒でした。

その他、ここ半年程は会社内の環境の変化も伴って精神的に弱っていたのですが、最近ようやく回復してきました。調子の良い日もあれば悪い日もありますが、昨年の12月にサイクリングを趣味で始めてから良くなってきた気がします。運動は大切。

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Dahon Speed D8

なんだかんだあったけど書いて良かった

本書いて出版したぜ!みたいなキラキラした感じの記事はたくさんあるので、本記事ではドロドロとネガティブな感じで書いたわけですが、実際のところ執筆の話が来たらやってみるのが良いのではないかと思います。ITエンジニアがアウトプットすることのメリットは様々な記事で書かれていますが、書籍執筆はその中でも最上位の経験の一つではないでしょうか。とはいえ、かなりの苦労をするのは間違いないため、メリット・デメリットを天秤にかけて判断するように。

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